黒猫は古来より、とくに道に迷っているものを
正しい場所へ導いてくれるといいます。
その者があるべき場所へ帰れるように。
この世とは違う場所へでも……。
サークル:しらたまこ
シナリオ:さかき傘
公式サイト:星空鉄道とシロの旅
みんな大好き、しらたま先生のサークルより出された同人ノベルゲーの雄…星シロ!(その略称はあってます?)
メンツが強すぎるので名作なのはわかりきっていましたが、さかき傘氏の描くどこか温かい物語と、優しさが満ちるしらたま先生の絵が綺麗にマッチしていましたね。
背景やグラフィックも(幻想的でありながら)とても美しく、同人ノベルゲーとしての1つの完成形を見させていただきました。正直不満に思う部分がないというか…。
あ、でもシステム周りはちょっとアレでしたね…。
優れたプレイヤー諸氏なら、タイトルから宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のオマージュなのだと気づくでしょう。
ただ一方でそのオマージュがどこまでなのか…。カルハはカムパネルラの立ち位置だろうけど、いずれ消え去る友人なのか…。
そこらへんの駆け引きがとても上手く、ドキドキしながらプレイすることができました。
熱中しすぎてギックリ腰になるくらいには…。
それでは、以下ネタバレ注意で。
宝石袋、空の穴
世界はキラキラの詰まった宝石箱かもしれないが、キラキラに価値を感じられなくなる。
それはもう仕方のないことだ。
大人になるってそういうことだろう。
世界は神秘に満ちている。
人が科学という明かりをもってその闇を暴いていっても、世界のすべてを知ることはできない。いや、もしかしたらいつかそこに辿り着くかもしれなくても「すべてを知った」ことを知ることはできない。世界の神秘の最奥は、人の限界点でもある。だからこそ、いつまでも世界は神秘に満ちている。
一方で、人は既知を重ねて世界を認識していく。
大人になるとはそういうことだ。僕もノベルゲーをプレイし始めた頃は気づかなかったはずなのに、今ではこの作品が「銀河鉄道の夜」のオマージュだとすぐ気づいた。経験こそが、世界を既知に変えていき、驚きと純粋さを失わせていく。
果たしてそれは正しいことだったのだろうか?
もう……たぶん声も出ないと思う。
発生は1年以上やってないし、酒とタバコで喉が焼けて。
主役どころか舞台に立つことも、もう。
―――花江
何かを知るたびに、大人になるたびに、宝石箱の裏側が見えるようになっていく。
夜空の星、花火、バーベキュー、プラネタリウム、アニメ、演劇…
美しかったなにもかもは、常に比較され続け、そしてそれがただ美しいだけのもので出来ていないと知る。美しいものは美しいものだけで出来てていない。
だが、生きるとはそういうものなのだ。
他の動物を殺し、肉を食べなければ十分に生きられないように。
誰かに支えられながら、迷惑をかけながらしか歩けないように。
何かを傷つけて、それでも美しさを感じたものがあったはずだ。
奪ったものを忘れてはいけないけれど、だからといってその宝石が嘘になるわけではない。
「いいもんだぞノワール……世界は。
世界は……宝石箱だ。
キラキラが詰まった宝石箱なんだ」
「キラキラが……」
「うんざりすることもあるだろう。
人生はそのキラキラの奪い合いで、嫌な思いもするだろう。
でも、それでも。
それでも見てほしい。お前自身の目で。
キラキラを見てきて欲しい」
―――暁、真白
世界は神秘に満ちている。この世に不思議なことなど何もない。
だから、移植された臓器に持ち主の魂が宿ることだってあるだろう。
これは身体というミクロコスモス(小宇宙)を巡る旅。生きることを決めた歩みには、いつまでも傍で灯り続ける星があるはずだ。
……楽しい旅をします。
あなたと一緒に、旅を。
いつまでも……あなたと……。
所感
僕はオマージュ大好き人間なので、もうOPから満点!という感じだったのですが、読み進めると宮沢賢治作品の色々なところを持ってきて非常にGoodでした。
さかき傘氏、AMBITIOUS MISSION あたりでも思ったけど児童向け文学とのマッチがすごい良いので、これからもぜひよろしくお願いします…という感じです。
カルハがカムパネルラのオマージュなのは早い段階で気づけていたけど、じゃあカルハは(テーマの)導き手なの?とか、実は死んでしまっているの?みたいな部分がありましたが、そこを上手く料理していましたね。完全にやられたぁ…という。
シロたちが乗る星空鉄道も、実際の大宇宙(マクロコスモス)でなく、身体という小宇宙(ミクロコスモス)というのも本当に最後、カルハの正体と同時に理解して、色々とマッチしていたプレイ体験でした。
そう考えると、途中で各々の星座を話した部分は伏線…だったのかもしれない。(カルハ=魚座:体液/血液? ジビエ=天秤座:腎臓? タカセ=乙女座:小腸大腸? シロ=獅子座:心臓/動脈?)
まぁ肺を担当できるのが、肺が悪かった花江さんしかいなくなるので間違ってるかもです。それに黄道十二宮と人体のシンクロは僕も正しそうなソース本を持ってないので、話半分で聞いてもらえれば。
お気に入りキャラはノワール、カルハ、ねり。
危ない…ギリギリでロリコンじゃなかった…。
夢破れた大人組の感覚は身近で、それでも転びそうになるノワールの支えになってあげられていた部分がとても良かったです。
夜空に光る星々のように、美しい物語をありがとうございました。
(終わり)