古明堂

『こめいどう』と読みます。主にエロゲの批評などをしております。

星空鉄道とシロの旅 批評 -灯り続ける星-(2207文字)

黒猫は古来より、とくに道に迷っているものを

正しい場所へ導いてくれるといいます。

その者があるべき場所へ帰れるように。

この世とは違う場所へでも……。

 

サークル:しらたまこ

シナリオ:さかき傘

公式サイト:星空鉄道とシロの旅

 

みんな大好き、しらたま先生のサークルより出された同人ノベルゲーの雄…星シロ!(その略称はあってます?)

メンツが強すぎるので名作なのはわかりきっていましたが、さかき傘氏の描くどこか温かい物語と、優しさが満ちるしらたま先生の絵が綺麗にマッチしていましたね。

背景やグラフィックも(幻想的でありながら)とても美しく、同人ノベルゲーとしての1つの完成形を見させていただきました。正直不満に思う部分がないというか…。

 

あ、でもシステム周りはちょっとアレでしたね…。

 

優れたプレイヤー諸氏なら、タイトルから宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のオマージュなのだと気づくでしょう。

ただ一方でそのオマージュがどこまでなのか…。カルハはカムパネルラの立ち位置だろうけど、いずれ消え去る友人なのか…。

そこらへんの駆け引きがとても上手く、ドキドキしながらプレイすることができました。

熱中しすぎてギックリ腰になるくらいには…。

 

それでは、以下ネタバレ注意で。

宝石袋、空の穴

世界はキラキラの詰まった宝石箱かもしれないが、キラキラに価値を感じられなくなる。

それはもう仕方のないことだ。

大人になるってそういうことだろう。

 

世界は神秘に満ちている。

人が科学という明かりをもってその闇を暴いていっても、世界のすべてを知ることはできない。いや、もしかしたらいつかそこに辿り着くかもしれなくても「すべてを知った」ことを知ることはできない。世界の神秘の最奥は、人の限界点でもある。だからこそ、いつまでも世界は神秘に満ちている。

一方で、人は既知を重ねて世界を認識していく。

大人になるとはそういうことだ。僕もノベルゲーをプレイし始めた頃は気づかなかったはずなのに、今ではこの作品が「銀河鉄道の夜」のオマージュだとすぐ気づいた。経験こそが、世界を既知に変えていき、驚きと純粋さを失わせていく。

 

果たしてそれは正しいことだったのだろうか?

 

もう……たぶん声も出ないと思う。

発生は1年以上やってないし、酒とタバコで喉が焼けて。

主役どころか舞台に立つことも、もう。

―――花江

 

何かを知るたびに、大人になるたびに、宝石箱の裏側が見えるようになっていく。

夜空の星、花火、バーベキュー、プラネタリウム、アニメ、演劇…

美しかったなにもかもは、常に比較され続け、そしてそれがただ美しいだけのもので出来ていないと知る。美しいものは美しいものだけで出来てていない。

 

だが、生きるとはそういうものなのだ。

他の動物を殺し、肉を食べなければ十分に生きられないように。

誰かに支えられながら、迷惑をかけながらしか歩けないように。

何かを傷つけて、それでも美しさを感じたものがあったはずだ。

奪ったものを忘れてはいけないけれど、だからといってその宝石が嘘になるわけではない。

 

「いいもんだぞノワール……世界は。

 世界は……宝石箱だ。

 キラキラが詰まった宝石箱なんだ」

「キラキラが……」

「うんざりすることもあるだろう。

 人生はそのキラキラの奪い合いで、嫌な思いもするだろう。

 でも、それでも。

 それでも見てほしい。お前自身の目で。

 キラキラを見てきて欲しい」

―――暁、真白

 

世界は神秘に満ちている。この世に不思議なことなど何もない。

だから、移植された臓器に持ち主の魂が宿ることだってあるだろう。

これは身体というミクロコスモス(小宇宙)を巡る旅。生きることを決めた歩みには、いつまでも傍で灯り続ける星があるはずだ。

 

……楽しい旅をします。

あなたと一緒に、旅を。

いつまでも……あなたと……。

 

所感

僕はオマージュ大好き人間なので、もうOPから満点!という感じだったのですが、読み進めると宮沢賢治作品の色々なところを持ってきて非常にGoodでした。

さかき傘氏、AMBITIOUS MISSION あたりでも思ったけど児童向け文学とのマッチがすごい良いので、これからもぜひよろしくお願いします…という感じです。

 

カルハがカムパネルラのオマージュなのは早い段階で気づけていたけど、じゃあカルハは(テーマの)導き手なの?とか、実は死んでしまっているの?みたいな部分がありましたが、そこを上手く料理していましたね。完全にやられたぁ…という。

 

シロたちが乗る星空鉄道も、実際の大宇宙(マクロコスモス)でなく、身体という小宇宙(ミクロコスモス)というのも本当に最後、カルハの正体と同時に理解して、色々とマッチしていたプレイ体験でした。

そう考えると、途中で各々の星座を話した部分は伏線…だったのかもしれない。(カルハ=魚座:体液/血液? ジビエ=天秤座:腎臓? タカセ=乙女座:小腸大腸? シロ=獅子座:心臓/動脈?)

まぁ肺を担当できるのが、肺が悪かった花江さんしかいなくなるので間違ってるかもです。それに黄道十二宮と人体のシンクロは僕も正しそうなソース本を持ってないので、話半分で聞いてもらえれば。

 

お気に入りキャラはノワール、カルハ、ねり。

危ない…ギリギリでロリコンじゃなかった…。

 

夢破れた大人組の感覚は身近で、それでも転びそうになるノワールの支えになってあげられていた部分がとても良かったです。

夜空に光る星々のように、美しい物語をありがとうございました。

 

(終わり)