古明堂

『こめいどう』と読みます。主にエロゲの批評などをしております。

あの晴れわたる空より高く 感想 ー夢の行き先ー (2431文字)

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見せてやるよ。

今日、俺たちが咲かせる“真夏のコスモス”ってやつを

 

ブランド:チュアブルソフト

シナリオ:範乃秋晴、草壁よしお

公式サイト:あの晴れわたる空より高く

 

萌えゲーアワード2014で準大賞を獲得した本作なのですけど、実は購入したのはだいぶ前で、ユメミルクスリより前だったりします。

いや、確かこの時ってチュアブルソフト割引みたいなのがあって「私が好きなら「好き」って言って!」とか「残念な俺たちの青春事情」と一緒に買ってるんですけど、この2つが圧迫してるうちに起動どころかダウンロードもしないうちに一年以上たっていました…。

まぁいい機会なのでプレイしたのですけど、駆け抜けましたね。四日間で最後の最後までプレイしてしまいました。

やっぱりなんというかこう、ころげての時もそうですたけど僕って青春モノに弱いんだなぁ、と。

 

というわけで以下感想。今回は「夢」についてのお話。

余談として「猫の地球儀」のネタバレもあるので注意で。

 

溢れ出る夢

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私の宇宙への夢は、人道的な立場からロケットの研究を中止するには、あまりに強かった

その頃の私は、宇宙旅行の実現に向かって大きく前進できるならば悪魔に心を渡しても良い、とさえ思っていたのです

―――フォン・ブラウン

 

「夢」というのは、本当にどこまでも綺麗だ。

それが不可能なことでも、いや不可能だからこそ人はそれに魅入られてしまう。

そうなれば最後、人はその「夢」を諦めることなんて出来ない。

たとえ何を犠牲にしても―――そう、本当に何を犠牲にしても彼らは「夢」にすべてを捧げてしまう。

ロケットの燃料のように、ありとあらゆるものが夢のために焼べられてしまう。

 

夢を目指すのはまるでロケットみたいだわ

ロケットが推進剤を燃焼させて

吐き出す反動で宇宙を目指すように

あたしたちは

時間や、お金や、友達や家族や、プライドや

そういう色んなものを捨てた反動で

夢へと向かう

もちろん、中には

どうしても捨てられないものもあったけれど

それ以外はみんな捨てた

そうしないと、この体の重さに耐えかねて

たちまち地上に叩きつけられると思ったから

―――有佐

 

 アポロ計画に大きく寄与したフォン・ブラウンは、かつて宇宙進出のために多くのモノを犠牲にした。お金、時間、技術、そして無辜の命すら。それは燃料となり、サターンVを月面まで届けた。

それは正しい、正しくないという話ではない。「夢」とはそういうもの。ありとあらゆるものを焼き尽くして、3000℃の翼をもって空をかける地上からの流れ星。

 

そいつが生きている夢の中から、その猫を救い出すことは、たぶん、誰にもできないのだ。

それは「いい」でも「悪い」でもない「悲しいこと」なのだと思う。

過去に、そういう奴がいたからこそできたことも、そういう奴がいたからこそ行けた場所も、たくさんあったはずだから。

過去に、そういう奴がいたせいでできなくなってしまったことも、そういう奴がいたせいで行けなくなってしまった場所も、たくさんあったはずだから。

 ―――秋山瑞人(「猫の地球儀」より)

 

「夢」によって壊されたものは沢山有る。もしかしたら、黎明の親は死なずにすんだかもしれない。もしかしたら、乙矢とその父親の確執は生まれなかったかもしれない。漁業組合の人たちだって生活が脅かされることもなかっただろう。

 

けれど、それでも「夢」は美しく。

その「夢」に魅入られた人間の情熱もまた、同じように美しい。

 

不可能といわれたそれを、出来ないと言われたそれを

彼らは最後まで笑って、真夏のコスモスを咲かせようと、必死に努力し続けた。

多くのものが犠牲にされたかもしれない。だけど、そのすべてを燃やし尽くしてロケットは確かに飛んでいった。

それは、あの晴れわたる空より高く

 

所感

「夢」というのはとても難しくて、それは一見美しく見えるけど実際問題多くのものを犠牲にしてるわけです。

まぁでも、人が何かを目指す時、それは何かを犠牲にしなくちゃいけないくて、それはもうしょうがない等価交換なのかなぁとも思います。

それがエゴと呼ばれる人の罪だとしても、それでも叶えたいものがある。きっとその情熱に人は心打たれてしまうのでしょう。良し悪しではなく、僕はそれを、ただただ美しいと思います。

もし自分のすべてをかけても良いと思えるものと出会えたら、どんなに幸せだろうと、最近はそういうことばっか考えてしまいますね。

 

猫の地球儀」もまた、「夢」について語った物語ですが、こちらは「夢」が犯した罪についてより克明にシリアスに描かれています。今回の感想ではそういう部分もあるんだぜってことを(少しではありましたが)本作でも話していたので、「猫の地球儀」を引用させてもらいましたが、気になる方がいたら読んでみてください。名作ですよ。

 

感想では「夢」についてしか語ってませんが、もちろんモノ作りの楽しさみたいなものを疑似体験できるのもこの作品の強みだと思います。失敗してもすぐ原因がわかるわけじゃない、原因がわかっても解決策なんてどこかにあるわけじゃない。これ、理工学系の僕からすれば「それな」の連発なんですけど、あまりそういったことに関わりのない人にも伝わればいいと思います。まぁ僕は結構すぐに諦めてしまう人間なのですが、ははは。

 

お気に入りキャラはほのかと夏帆。特に三人で星空を見るシーンが僕は好きで、どっちのルートでも良い展開ですよね、あそこのシーンは。

 

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実は最後のこのシーンにつながってたりとか、コリョリフとかフォン・ブラウンとか、そういう小道具の使い方が上手かったですね。

 

残念なことにチュアブルソフトは倒産してしまいましたが、僕は今でも「私が好きなら好きって言って」のまや姉を攻略できるFDが発売されるのを待ってます。ゆいが攻略できるFDも待ってます。てゆーか攻略できない魅力的なサブキャラを配置するのはやめないか?「まや姉さんに甘やかされるCD」は買ったけどさ!それとこれは話が別なんだよ!

 

(終)