それでも、俺は……全部が思い通りになるわけではないお前と、わかりあおうとしながら生きていきたい
ブランド:Whirlpool
シナリオ:近江谷宥
公式サイト:ワールド・エレクション
そのとおりだ、話すということが、ぼくらに残された唯一のチャンスだ
話すということがぼくらのチャンスなのだ
―――モーリス・ブランショ 『終わりなき対話』
以下感想。ネタバレ注意で。
分かり合えるということ
「人類の歴史は戦争の歴史である」とは誰の言葉か。
そんなことない!と反論したいけど、実際人は争ってきたし、そういうアナタだって(そして僕だって)誰かと喧嘩したことくらいあるでしょ?と言われればおとなしく首を縦に振るしかない。
ワールドエレクションは、五つの異なる世界が争いあって共に歩み始めるところから始まる。世界が統一され、個性豊かな隣人と一緒に笑いあうエピローグの世界。
だからこれは、繰り返される「争い」の先にある「相互理解」の物語なのだ。
メインヒロインの各ルートではそういう「理解」がキーとなっていて、主人公は共通ルートから変わらず「理解しあえる」というスタンスを持ち続けた。
ソフィアは、敬に変えられてしまった自分が分からなかった。そして変わってしまった自分に対して周りがどんな反応をするかもわからなかった。
パフは、人を愛するということが言うほど簡単じゃないと知らなかった。人が人に対して持つ情念は、愛憎悲喜こもごも。誰もが規格化できないような思いを持っていると知らなかった。
ファウラは、敬のやり方が理解できなかった。力で誰かを従わせること。敬は分かり合うことで解決できると信じていたけど、彼女はそのスタンスを信じることができなかった。
伊織は、敬に自分の秘密を話せなかった。どれだけ近くても、仲の良い兄妹でも知らないことは、知られたくないことがあった。
誰かを理解しようとするのは、とても難しいことだ。自分が知らない相手の一面が現れるし、もしかしたらとんでもない秘密が待っているかもしれない。今はエピローグでも、「理解しあおう」とすることで「争い」のプロローグは始まってしまうかもしれない。いや、きっと始まってしまうだろう。それでも僕らは誰かと「理解しあおう」と思えるのか?
クルルルート(Trueルート)では、そのことが問われる。
クルルの母体、冥界は「争い」を恐れた。だから、すべてが『私』になってしまえばいいと考えた。みんなが『私』になれば「争う」ことはない。一人なら誰かと争うことなどない。
……それでも、彼はその永遠の平和を否定する。
お前とならケンカしたい。苦しんだり悩みながらでも、お前に傍にいてほしい。
永遠の平和なんて理想より、ワクワクできる明日が俺は欲しい。
お前と一緒に歩いていきたい。
―――獅子堂敬
どこまでも平和なエピローグなんてない。現実の世界に「末永く幸せに暮らしました」なんて文言はないのだ。いつかきっと、そのエピローグが終わりを告げる時が来るだろう。
けど、その「争い」を昔の話にできるのも人の強さだ。「分かり合える」と手を伸ばせるのは人の強さだ。
五界すべてを巻き込んだヴァレロン国際学園での生徒会選挙は、世界の縮図だ。崇拝する者、恋する者、憎む者、欲望のままに生きる者、支える者、支えられる者、理解しあえる者、理解しあえない者…。
そんな中、獅子堂敬は『誰か』とつながりあって成長していく。彼ひとりじゃなんの意味もなさない異能『贋作師<ダミーメーカー>』を使いながら。
生徒会選挙で勝ち抜いた彼は、世界の代弁者であるけれど、そんな立場を投げ捨てて愛する人に「理解しあおう」と言う。全であり個となるかは自分が決めることじゃない。それは一人一人が判断することだ。敬はただ、自分の好きな人と一緒に歩いていきたかっただけなのだ。
敬が生徒会選挙で満票を取れなかったように、誰もが理解しあえるわけではない。きっとそれが争いの種となり、いつかエピローグが終わる時が来るだろう。
きっと、誰かと一緒に生きていくということはそういうこと。
ケンカして、笑いあって、憎んで、愛しあって。
それでも、みんなと一緒に生きていくことは、そんなに悪いことじゃない。
「わからないなら一緒に見つけよう」
「……怖いよ、とても」
「なら、その怖さは俺にくれ。俺が……クルルの怖さと一生向き合うからさ。
ずっと傍にいる。一緒に悩んだり、苦しんだり……笑いあったりしながら生きていこう」
―――獅子堂敬、クルル
所感
Whirlpoolの作品って今までやったことなくて、初情スプリンクルにハマってからワールド・エレクションを買ったんだけど、両方ともいい感じのクオリティでびっくりした。
このライターはキャラの動かし方がとってもうまくて、キャラがイキイキしているというか、主人公を含めやりたいことやってる感があっていいよね。こーゆーキャラには元気貰えるので、次回作も積極的に買っていきたいですね。
結局、「ワールドエレクション(世界選挙)」ってのは、ヴァレロン国際学園での生徒会選挙を指してるのだけど、それに勝った敬は、いわば世界の代弁者なのだよな。だから、彼が分かり合うことを望むということは、それが「世界の選択(ワールドセレクション)」なのだけど、それをうけて、冥界のほうも分かり合うという「世界の選択(ワールドセレクション)」をしたわけだ。
ここらへんの暗喩が妙にいい感じ出してるというか、主人公のコピー能力といい、うまいことシナリオ作ってますよね。
共通ルートはともかく、個別が割とマジで短い。
ほんとに、このゲーム欠点を上げるとしたらそれだけなんだけど、サブヒロインやら登場人物の多さやらを考えるとたぶん予算的にきつかったんでしょうな…。
登場人物の多さは、世界にはいろんなやつがいる、みたいなそういう実感をプレイヤーに持たせてくれて、顔グラもないキャラも、キャラがたってて面白かった。(特に魔族のみなさん)
10周年記念作品らしい、お祭りみたいなゲームでした。うん、ライターほんとにすごい。こういうレベルのものを記念作品に出せるのはなかなかいないよ。マジで。
お気に入りキャラはクルル。……とソロス。
アイツ憎めないキャラだよね…。でもおまけHシーンの導入の大体がソロスなのはマジで笑いすぎました。便利すぎでしょソロス。
(終わり)