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夜巡る、ボクらの迷子教室 批評 ―夜は巡り始める― (10516文字)

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「学校という場所は不思議なもので、時間の流れ方が少し違う」

今、生きているのが辛くても―――

「変えようと思ったときに、まるで少し待って支えてくれるように感じる。それをうまく利用して―――」

どこまでも辛くても―――

「―――皆さんは、この調子でいけそうですか?」

俺達は諦めちゃいけないんだ―――

「新しい方法は、見つけられそうですか?」

 

 

ブランド:SAMOYED SMILE

シナリオ:porori/画用紙/御導はるか/シャア専用

公式サイト:夜巡る、ボクらの迷子教室

 

一時期、ED曲の一つが某BUMPに似ていると話題になっていた今作。

まぁ実際似てますけど、ボクは曲さえ良ければ何でもいい派なので最近は狂ったように聞いています「星団歩行」。

というかOPEDの収録されたサントラ目的で買ったんですけど、予想以上に内容が面白すぎて久々に良い買い物をしたなぁって感じです。サントラのOPEDはFullだと思ったらShort.verでしたけどね…。いえ、ボーカルコレクションでも出たら買うんでそれはそれで良いんですけど…。

まぁMaking Loversが当たりだったから外れてもいいか…という思いで買ったらめちゃくちゃどストライクでした。

あんまり人にお薦めはできないですけど、久々に「そうそう!こういうヤツなんだよ!俺が求めているのは!」と思える作品でした。

 

おすすめ攻略順は「はやて」→「きな」→「りこ」ですかね。

いや、この順番めちゃくちゃ悩みましたけど。理由は後述ってことで。

 

いやぁほんと面白かった。まだの人は是非買ってくださいね。

そんな感じで以下ネタバレ注意。

 

夜空には星が瞬く

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先生、わたし……

いま、死んでもいいかもしれません

死んでもいい夜だなぁって思います

こんな夜も、生きてるうちにあるものなんですね

 

 

夜間学校、それは一度大きな失敗をして戻る場所を失ってしまった流刑の地。

生徒はなおのこと、支えるはずの教師ですら、社会から排斥されドロップアウトしてしまった落伍者だ……と、事実かどうかはともかくとして、主人公はそう感じている。

実際この夜間学校に限れば、その言は正しい。

小清水はやては、家族に認められなかった。

新島きなは、悲惨ないじめを受けていた。

門倉綾子は、何もかもから逃げていた。

そして藤原晴生は、理想と現実の間にあるギャップに心が折れてしまった。

それぞれが、自分の人生と折り合いを付けられなかった。もちろん、自分の在り方と社会との間に完全に折り合いを付けられる人なんていないだろう。けれど彼女たちは社会の中で生きることができなかった。

彼女達は、一日に2つの世界を行き来している。

日常と日常から隔離された夜の空間。

―――藤原晴生

だから、彼女たちはもう一つの場所を求めた。日常が自分に牙を向くのなら、日常から隔離された夜の世界へ。

 

そうして逃げてきた夜の世界、迷子教室。意志を持ってではなく、ただ逃げてきたから彼女たちの表情は一様に暗い。

けれど、未だ教師の情熱を捨てきれなかった主人公と関わることで、生徒達は少しずつ前向きに生きていこうとする。何も事態は好転してないけど、自分の成長を感じて、何かをしたいと思えるようになっていく。

そのメタファーが、共通ルートの天体観測のシーンだろう。

日常から隔離された夜の世界、日常の世界にいられなかったから逃げ込んできた彼女達は、そんな暗闇の世界の中で”星”という光を見つける。

夜の中でも星が輝くのは、生徒達が逃げてきた先で希望を見つける暗喩なのだ。

だからその後、主人公は自室で彼女たちに「新しい方法は見つけられそうですか?」と問い掛ける。

生きることに前向きじゃなければ、新しい方法で生きていこうなんて出来ないだろう。そして、各ルートでは、彼女達が主人公とともに「新しい方法」を見つけて前向きに生きていこうとするのだ。

 

Regret

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 「正しい選択肢なんて選ぶまで誰にも分からない……だから小清水、お前は後悔しない道を選んでけよ」

「……後悔しない道を選んでも、それが間違ってたら?」

 

 

どれだけ若くても、どれだけ満足そうに見えていても、生きている限りきっと後悔というのは多かれ少なかれついて回る。

 「あの時ああすればよかった」とか「なんであんな事をしてしまったのか」とか「どうしてこうしなかったんだ」とか……。まぁ例を上げていったらキリがないのだけど、そういったどうしようもない後悔というのが、アナタにも(そしてボクにも)あるに違いない。*1

 

それでも頑張って、どうにか後悔しないように選択していく。

その時自分が正しいと思ったことを、その時自分が信じたものを。

けれど世界は理不尽だから、この手から大事なものがこぼれ落ちてしまう事だってある。僕らは未来が視えるわけじゃないから、良かれと思ったことが悪い目に出てしまう事だってあるし、いつかと思って先延ばしにしていたらもう取り戻せなくなってしまった事だってある。

正しい選択肢なんて、選ぶまで誰にもわからない。

後悔を正そうとしても、それを成せるとも限らない。

人生の、なんと容赦ない事か……

だけどそれでも、時間は止まらず明日はやってくる。俺の気持ちなんてお構いなしに世界は回る、回り続ける―――

―――藤原晴生

はやては後悔しない道を選ぼうと努力し、家族に対して自分の気持ちを正直に打ち明けた。

母親との仲違いはあったものの、父親が自らの心を開いてくれたことで、彼女は自分が大事にしたいと思ったことを後悔せずキチンと守り抜いたのだ。

それに触発されて主人公もまた、後悔しないように父親と向き合うことを決心する。しかし、その日取りを先延ばしにした結果、父親は話す機会もないまま帰らぬ人となってしまう。

父親が、思い込んでいたままの糞野郎だったら良かった。家庭のことも母親のことも顧みず、自分のしたいことをして満足しているようなヤツだったら良かった。

けれど父親は、母親のことを愛していたし、主人公をずっと案じ続けていた。ただ、それを言葉にして向き合うことが出来なかっただけなのだ。

それを日記を通して知った主人公は激しい後悔の念に襲われる。

もしあの時に話し合うとしていれば、あいつの言葉に耳を傾けていれば……。その時その時は後悔しない選択肢を選んだつもりでも、それが間違っていた。

 

失意の中、酒に溺れる主人公をはやての父が介抱する。

その時、はやての父が語ったのは、いつか主人公がはやてに向けた言葉だった。

「正しい選択肢なんて選ぶまで誰にも分からない……だから小清水、お前は後悔しない道を選んでけよ」

「……後悔しない道を選んでも、それが間違ったら?」

「そしたら誰か、他の人を頼るんだよ。後悔しないよう生きる為に、誰かに助けてもらうんだ」

―――藤原晴生、小清水はやて

もし1人で背負うのが辛いなら、誰かに一緒に持ってもらうのも良いと思いますよ

私も君の様にずっと1人で生きてきたつもりでした。でも違った、妻や娘たち……いろいろな人に知らず知らずに助けられていたんです

頑張れたのは、君が居たからだとはやては言っていましたよ。君が辛いのを一緒に背負ってくれたから、頑張れたと

だから君も、誰かを頼って良いと思いますよ。自分の辛さを分かち合える、そんな誰かと……

―――はやて父

人生は後悔の連続だ。

良かれと思ったことが悪い目に出てしまう。地獄への道は善意で舗装されていて、誰もが望んだままの道を歩めない。僕らは過去に戻れないから、二度と取り戻せないものが幾つもこの手から溢れていく。

痛みは消えない。けど、この痛みを分かち合う事はできる。この辛さを支えてもらえることはできる。

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思う存分、泣いていいんだよ。あたしが全部、受け止めてあげるから……

―――小清水はやて

 

 

人と関わる限り、人生には後悔が生まれる。

誰かを信じて裏切られたら?一人で生きていければ裏切られることもないじゃないか。痛みも辛さも抱えなくていい生き方ができるんじゃないか?

そんな生き方を実践してしまったのが、かつてのはやての父であり、主人公の父親の秘書だったのだろう。

確かに、そんな生き方をすれば傷つかずにすむかもしれない。だけどそれは、一番苦しい生き方で、「自分らしく生きる」とは真逆の生き方なのだ。

自分らしく生きるって言うのは、誰とも関わらずに1人で生きることじゃない……

誰かと過ごすからこそ自分らしさが生まれて……人と関わるから今のあたしって言う人間が生まれるんだなって

今思えば、あんたと出会う前……家出してた時のあたしはらだ生きているだけで、自分らしくはなかったと思うんだよね。体は動いてたけど、心は死んでたって感じなのかな……

上手く言葉に出来ないんだけど、自分らしく生きるのはこういう事なんだなって思えるようになったんだ

人と関わっていく事で辛いこともいっぱいあるけど、でも助けられる事も、助けてあげる事もいろいろあって―――

そうやって少しずつでもみんなが優しくなればいいなって、秘書の人が言ってた事も、きっとそう言う事なんだろうね

―――小清水はやて

誰もが人と関わって辛い思いを抱える。後悔しない生き方なんて出来ない。

けれど、誰かと一緒に生きれるのなら、少しずつみんな優しくなって他人の痛みを支えてあげられれば、そんな痛みも抱えて自分らしく生きていける。

そうやって僕らは、痛みながら幸せに歩み出せるのだ。

 

 

 

だからさ、ずっと一緒に居てよね。あたしを幸せのままでいさせてよ……ふふっ

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Others

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「わたしは普通に生きたかっただけなのにっ!!」

普通に学校を卒業して

「ただ皆と楽しい時間を生きたかったのに」

大学に進学して

「幸せに生きたかっただけなのにっ!!」

大人になって、仕事について

「普通の人生を送りたかっただけなのにッ!!」

好きな人と結婚して、子供が生まれて

優しい家庭を築く。

そんな人生を送りたかっただけなのに……

 

 

一番新しい記憶は、どんな?

古いけど、何度も思い出すから新しい記憶。

腸をぐちゃぐちゃに切り刻まれて、頭おかしくなるほど脳みそかき回されるような記憶。そんな記憶がアナタにあるだろうか?そしてその記憶が常にアナタを苛んでいるだろうか?

本当に辛い記憶というのは、影のようについて離れない。幸せで輝くような瞬間ですら、その影はより強く人を苦しめる。光の中でこそ、暗闇はより昏くあり続ける。

新島きなは、ずっとその影に囚われていた。

かつていじめられていた記憶。人生でもっとも辛かった記憶。何度も何度も思い出す一番新しい記憶。

 

きなに対するいじめは行き過ぎとしても、この世の中に他人の悪意というものはあまりにもありふれている。

他人を見下し、蹴落とし、排斥し、利用し、傷つける。

アナタは誰か見下してる人がいませんか?

アナタは誰かを利用してませんか?傷つけていませんか?

僕も含めて人間というのは、多かれ少なかれこういった罪を背負っている。もしコレを読むアナタが「いやいや、俺(私)はそんな事無いよ」と真顔で言えるなら、おめでとうございます、アナタはまさしく聖人君子です。(皮肉です)

誰も彼もが、自我を持つがゆえに、他人を傷つけなければ生きていけない。それは生まれ落ちた時に背負った罪、原罪に他ならない。

人間はこの世に生を授かった時に罪を背負う。

生という名の罪を。

―――藤原晴生

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この世界は理不尽で、どこまでも残酷だ。誰もが誰かを傷つけなければ生きていけない。だから弱いものは傷つけられる。優劣を付けられ、とことん踏みにじられる。

そうして誰からも傷つけられてきたのが、主人公ときなだ。

主人公は大人だから、そんな現実を受け入れなきゃいけないと分かっている。

けれど、受け入れることと諦めることは別だ。

綺麗ごとを言っても、生きていれば嫌でも優劣はつくものだから。

それを、俺達はいずれ受け入れなくちゃいけないんだ。

何をやっても、どう頑張っても上手くいかない、ままならない世界の中で。

だけど……少しずつだけど、それでも諦めちゃいけないって思うようになった……思えるようになってきたんだ……。

―――藤原晴生

傷つけられてしょうがないと諦めるのも、傷つけてしょうがないと諦めるのも違う。

最低の自分を作って、自分は最低だからと言い訳するのも違う。

辛くても、苦しくても、諦めちゃいけない。

 

自分を傷つけるものすべてを殺して、幸せになれるのかと問われれば、しかし違うと僕はそう答える。

自分を傷つけるものすべてを消し去って、他人を殺して、そして一体何が残るのだろうか?

僕たちはどこまで行っても、同じではない他人だ。誰も彼もが傷つけ合わなければならない。それは想いを通じ合わせたはずの主人公ときなですらだ。

うるさいッ!!!

私の気持ちを知らないくせにっッ!同じじゃないくせに!

先生に……なにが分かるんですかッ!!!

―――新島きな

そんな誰も彼もが同じじゃない世界で、傷つけるもの殺そうとすれば、本当に全人類を殺し尽くさなくてはならないだろう。

……だけど、きっと他人は傷つけるだけじゃない。

昔在籍していた学校の生徒に傷つけられた主人公を、きなが優しく励ました事。

廃校の件で主人公が父親に抗議した時、生徒全員が付いてきて頭を下げた事。

いじめていた子に再会したきなが負の感情を爆発させた時に、主人公がそばで支えてくれた事。

かつて、きなをいじめていた子から、はやてが守ってくれた事。

それを、傷の舐め合いと言うのかもしれない。けれど、そうして支え合って助け合って生きていけるのも他人なのだ。

世の中には色んな人間がいる。

自分のことを理解してくれない人だっている。自分のことを理不尽にねじ伏せてくる奴だっている。

それでも頑張って生きていかなくちゃいけない。歩みを止めちゃいけない。

どんなに最低で醜悪な世界でも、また逃げ出したい、戻りたいって思ってもどうかこらえて、新しい一歩を踏み出して欲しい。

幸せになれるのは、きっとその世界にいるからなんだ。

―――希望を捨てないで……生きてください。

―――藤原晴生

きっと、嬉しい事より、傷つけられる事の方が多いだろう。

人生の九割は不幸で、幸せなんてものは残り一割にすぎないからだ。

それでも、幸せになれるのはこの世界にいるから。

『人生ほど容赦ないものはないけど、そんな人生の中で、明日に想いを馳せるのはきっと悪いことじゃないはずなんだ』

―――藤原晴生

そうやって望み続けていれば、いつかきっと、自分と一緒にいてくれる他人が現れる。

諦めちゃいけない。僕たちは、この世界で生きることでしか幸せになれないんだから。

幸せになることを、いつまでだって諦めちゃいけない。

 

 

 

わたし、幸せだよ……あなたとずっと一緒にいられて、愛し合ってこうしてそばにいてくれて……

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Treasure

f:id:Koyayoi:20171217093154j:plain血なんかでても、へいき……。いたくないよ。だって……

りこが消えればいいんだもん

 

一番大事なもの、愛するもの、支えになるもの、かけがえのないもの

自分の全てを掛けても良いと思えるもの。

りこは母親のために、自分の存在を消そうとした。

綾子は娘のために、限界まで努力した。

愛していたから、そのために辛くてももう一歩進めた。

大事なもののためにときには自分さえ打ち捨てる。

自分が消えてしまっても大事なものは残るように。

自分の持てるものを限界まで注ぎ込む

 

―――藤原晴生

 

けれど、それもいずれ限界が来る。愛するだけじゃ不十分なのだ。

必要なのは、愛を伝えること。相手に向き合って、その名前を呼びかけること。アナタを愛していると、そのことを理解してもらうこと。

「よしよし……ごめんね、ごめんね……。いっぱいつらい想いさせて……。お母さん、ぜんぜん何もできなくて……伝えられなくて」

「ぐすっ、ひぅ……、ぅう、おかあさん、りこも……、りこも、うう、はぁ、ううぅ……!」

「りこが、お母さんの一番だからね。心配かけたね。お母さん、からまわりばっかりして……」

「いいの……、おかあさんが、おかあさん……だからぁ……!りこの、りこの……」

「愛してるよ、りこ……」

―――門倉綾子、りこ

それが出来なかったから、主人公の心は段々と軋みをあげる。

f:id:Koyayoi:20171217110328j:plain愛していた。愛されたいと思っていた。けれど、母親は自分のことだけを見てくれなかった。だから、母親に、母親の理想像に近づけるように努力した。

俺はあの時もう―――

その背中に追いつくことができればと考えはじめていた。

だから自分も教師を目指して。

何かが―――何かが見つかると信じて。

―――藤原晴生

母親のように、大事なものが見つかると信じた。愛するもの、支えになるもの、かけがえのないものが。自分の全てを掛けても良いと思えるものが、教師をしていくことで見つけられると思っていた。

けど、それは主人公の発想ではない。その方法すらも母親の呪いから生まれたものだった。

いい先生になってね。晴生ならきっと見つけられるわ。かけがえのないものを―――

―――藤原裕美子

母親は、そういう方法で大事なものを見つけた。だから主人公にもそう語る。弱くて向き合えなかったから、歪んだ形でしか愛を伝えることが出来なかった。

 

強くならなければならないという強迫観念は、きっと多くの人にあることだろう。

社会的地位が、金銭が、精神が、肉体が。

他の誰かより強くならなければならない。

でも、それは果たして何のためだったのだろうか?

大人の僕らが答えに詰まってしまうような問いを、幼いりこはさも常識であるかのように答える。

 

「あのね。りこも強くなりたいよ。そしたらみんなを守れるもん」

「あ、ああ」

そうだ。その通りだ。誰かを守るために。

俺は……。

―――誰を?

―――門倉りこ、藤原晴生

主人公は、ずっと誤魔化してきた。弱者を守りたいと語りながら、その実、愛されなかった事実を隠すために強くなろうとしていた。

「守りたかったものが何なのか、わかったよ」

薄い胸に強く頭を埋める。

誰かじゃない。

弱い誰かを守る器量なんて最初から俺にはなかった。

かといっても自分でもない。

自分を守らなければいけない弱い人間だと認めたくなかった。

「愛されなかった自分だ」

愛されなかった自分の上に、自分を形作った。強い自分を。

―――藤原晴生

強くなれば、愛されなかった自分を自覚せずにすむ。主人公は、愛されなかったという事実からずっと目をそらし続けていたのだ。

 

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愛されたいという欲望は、おそらく誰しもが持つ感情だろう。

愛されることは心地よい。誰かに必要とされ、求められるのはとても安心する。

アナタはここに居てもいいのだと言われている気がする。

僕ももちろんそういった欲望をもっているから、そのことを間違っていると言う気もない。愛されたいと思うことは、正しい感情の一つであろう。

けれど、それだけじゃだめなのだ。

誰かに愛されて、愛されて、愛されて、愛されて、それで終わりじゃない。アナタも誰かを愛さなくてはならない。託して、巡っていくモノ。それこそが愛なのだ。

だから、誰も愛せない主人公はそれを受け取ることを拒否した。受け取ってしまったら誰かを愛さなくてはならないから。

「お姉ちゃんたちもそうしてほしくて、そうしたかったんだよ。先生からたくさんもらったもの、また渡せるように……」

それなのに俺がひっくり返した。

初めから何も渡していなかったフリをした。

そうしたら受け取ったものを返せなくなる。奪ってしまったことになる。

俺は彼女たちを見下しながら、同時に加害者に仕立て上げていた。

―――門倉りこ、藤原晴生

愛されることを拒否した主人公は、りこと共に退廃の数日間を送る。

しかしそれは、りこから愛されていると実感するために必要な数日間なのだ。*2

りこの支えがあって主人公は選ぶことができる。

自分のもう一つの願い、「誰かを愛したい」という選択肢を。

 

自分だけの宝物がほしいと思っていたはずだった。

見つけたいと思っていた。

―――藤原晴生

 果たしてアナタにはあるだろうか

一番大事なもの、愛するもの、支えになるもの、かけがえのないもの。

自分の全てを掛けても良いと思えるもの。

そんな自分だけの宝物が。

でも、そんなものはこの世界中どこを探してもない。箱を開けても、箱を開けても、出てくるのは箱だらけ。何かに意味を見いだせないなら、それは空虚な入れ物でしか無いのだ。

だから、宝物は箱に自ら『何か』を注ぎ入れなきゃいけない。そうして出来たものが、アナタの宝物なのだ。

どれだけ見つけようとしても無いものは無い。無い奴には、無い。そう思うのは今でも変わらない。しかし―――

得ることはできるかもしれない

なぜなら、得ようと思えたときには既に得ているからだ。

―――藤原晴生

愛したいと思った時、既に人は宝物を手に入れている。

そうして人は、世界を肯定する(世界を手繰り寄せる)事ができる。

生の実感はそこでしか得られない。ドキドキすることも、ビックリすることも、生きているからこそ得られるものなのだ。

 

呼びかけられる声に、僕たちはいつだって期待する。

誰かが自分を愛してくれるかもしれない。自分は誰かを愛せるかもしれない。

そんな世界に満ちた謎。わからないドキドキ。

それがいつまでも終わらないからこそ、僕らは生きていける。だって、分からないことがなかったら、生きていくことなんていらないのだから。

俺はこの仕事が好きだ。なぜなら、呼びかけることができるからだ

―――藤原晴生

かつて愛することを恐れた主人公が語る言葉は、どこまでも希望に満ちている。

それはきっと、愛する人と、いつまでも共に生き続けられるから。

 

 

これからもずっと……ずっと、そばにいて、びっくりさせてあげる

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夜巡る、ボクらの―――

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生き方というのは、多かれ少なかれ誰もが、社会とうまく折り合いを付けていると思います。

小清水はやては未来を恐れて進めず、新島きなは反対に過去に恐れて進めませんでした。門倉りこはそもそも進むことを諦めていました。

彼女たちに程ではないにしろ、ボクらもそういう部分が少なからずあって*3、大なり小なり悩みを抱えているわけです。

タイトルや作中で表現されている「夜巡る」というのは、こういった悩みを抱えて如何に生きるか、という模索の暗喩なのだと思います。

そういったことを考えていくと、りこルートのEDにおいて夜空をバックにして語り合う二人は印象的ですよね。夜を巡り終えた(新しい生き方を見つけた)のに、まだ彼らは夜の中にいる。

でも、個人的な意見を言えば*4プレイヤーに向けての「夜巡る」シーンなのだと思います。

夜は巡る。

あの人に託されて。

あの子たちに託して。

目指す星も巡り、沈み、また昇る。

 新しい生き方を探す旅を、りこと主人公はおそらく終えた(ED後の一枚絵が晴天の中ということを思い出してください)のですけど、きなやはやてはまだ終わってない。

それに、夜を巡ることを知ったボクらもおそらく終えてない。だから、EDの一枚絵でりこと主人公は互いに笑顔で話し続けている(星も夜空も見ない)のではないかな、と。

あの美しい夜空は、これから夜を巡り始めるボクらのための絵なのではないのかなぁとか、そういうことを考えてしまったわけですね。

 

 

以下所感

 

久々に、こう、ハマった作品というか。これは批評文章書くしか無い…と思い立った作品ですね。

この作品は基本的に文章がきれいというか、印象的なフレーズを何度も何度も使いまわすことで読みやすい独特のテンポが生まれているような気がします。

それでいて、キチンと主人公や他のキャラクターの心理描写を欠かさない。だから、プレイヤーが彼らの悩みに心から共感できて、結果としてボクの胃が痛くなるわけです。 

 

いくつか書きたかったこともあったんですけど、まぁ冗長になりそうなのでカット…。いつか 日記とかで書ければいいですね。まぁこのゲーム、クリアまでに五日間、批評文書くのに五日間というどっちが主かわからない感じになってしまったので一旦休憩ということで……。

 

 個人的には『「かにしの」+「ユメミルクスリ」-透明感』みたいな。いや、この感じ誰か分かんないかな。

推奨攻略順は、りこときなのどちらを最後にするかですごい迷って、きなだと「他人からの排斥」がどこまでもリアルに感じれる(CGをネタバレするって件もありますし)んですけど、個人的にりこルートは「夜巡る、ボクらの―――」で語ったとおり、プレイヤーが巡り始めるということを伝えている(とボクは思っている)ので、こちらを重視しました。

いや、ここまで考えておいて何ですけど、好きにやったほうが良いですよ、こーゆーのは。ボクなんか「りこ」→「はやて」→「きな」の順ですからね。はやてルート行きたいなぁと思ってたらいつの間にかりこルートですよ。潜在的ロリコンなのか……?

 

というかSeal系列のクオリティではないですよね。たまに表情とセリフがあってなかったり、まぁ色々どうなのとは思うところはあるんですけど(サントラ収録がShort.verだったりな!!)逆にその荒削りな部分がいい味出してるかもしれません。次回作は……うーん、どうだろう、体験版次第かなぁ。一作目微妙っぽかったし。

 

お気に入りキャラははやて、だけど好きなルートはりこ。

あの晴れわたる空より高く」でも少し言及してるんですけど、ボクは前々から「もし自分のすべてをかけても良いと思えるものと出会えたら、どんなに幸せだろう」ということを考えているので、なんかそういう意味でも刺さるルートでした。

 

 

*1:ちくしょう!なんで俺は初回限定盤で買わなかったんだ!とか、やべぇMaking Loversを祖父で予約するの忘れてた!とか。エロゲと後悔は切っても切り離せない関係なのだ…

*2:つまり、胎児の時に受ける無償の愛を再度体験していると言える。りこの母性は主人公の欲望をすべて肯定する。ここにおいてようやく、主人公は自分が「愛されている」と実感することができるのだ。

*3:ボクだけじゃないですよね?

*4:意図してかどうかわかりませんが、という意味です